第3卦 水雷屯(すいらいちゅん)
屯(ちゅん)・ 上に水、下に雷 ・ 芽が地中で障害に当たる時
- 漢字/読み
- 屯 ・ ちゅん(zhūn)
- 意味
- 始まりの困難・産みの苦しみ
- 八卦の構成
- 上:☵ 水 / 下:☳ 雷
- 二進数
- 100010(十進 34)
- 序卦
- 第3卦 / 前:第2卦 坤為地
この卦の本質
「屯」という字は、草の芽が地中で障害物に押し当たっている形を指す。芽が出ないのではなく、出ようとして詰まっている。乾(創造)と坤(受容)がはじめて出会って個々の存在を生むとき、その最初の接触は困難に満ちている——易経がこれを第3卦に置いたのは、そういう順序の主張である。上卦の坎は水・険難で動きは下向き、下卦の震は雷・奮起で動きは上向き。逆を向いた二つの力が同じ場所にある、というのがこの卦の形。
肝心なのは、この困難が欠乏から来ていないことだ。ヴィルヘルムは「これらの困難は、形を成そうと奮闘しているすべてのもののまさに豊かさから生じる」と書く。混乱しているのは材料が足りないからではなく、多すぎて整理されていないから。だから処方は「減らす」ではなく「選り分ける」になる。
卦辞と象
「屯:元,亨,利,貞,勿用,有攸往,利建侯。」
——屯(ちゅん)は元(おお)いに亨(とお)り、貞(てい)に利(よろ)し。用(もち)いて往(ゆ)く攸(ところ)有る勿(なか)れ。侯(こう)を建(た)つるに利(よろ)し。(始まりの困難は、崇高な成功をもたらし、忍耐を通じてさらに前進させる。何も企てるべきではない。助け手を任命するのが有利である。)
「雲雷屯、君子以経綸」
——雲雷(うんらい)は屯(ちゅん)。君子もって経綸(けいりん)す。
卦辞は一見矛盾することを同時に言う——「往く攸(ところ)有る勿(なか)れ(軽々しく動くな)」と「侯を建つるに利ろし(人を立てよ)」。動くなと言いながら、何もするなとは言っていない。ヴィルヘルムはここを「彼は手を貸し、鼓舞し導きながらすべてに関わらなければならない」と読む。待つことと関与することは両立する——それがこの卦の最も実践的な指示である。
経綸——もつれた糸を選り分ける
象伝は「雲雷は屯。君子もって経綸す」と言う。経綸(けいりん)はもともと絹糸を扱う語で、経は縦糸、綸は糸を組むことを指す。混沌に対して秩序を外から与えるのではない。混沌の中にすでに通っている筋を見つけて引き出す作業である。
この像はそのまま実務的な指示になっている。始まりの時期にやることは、全体を統御することでも、収まるまで待つことでもない。一本の糸を選び、それを最後まで辿ること。六爻が繰り返す「馬に乗り班如(はんじょ)たり」——馬と車がばらばらになる——は、束ねる前の糸がほどけていく状態を指している。
ヴィルヘルムはこの卦をどう読んだか
ヴィルヘルムは屯を、易経の宇宙論的な順序の中に置いて読む。乾と坤が出会って最初に生まれるものが、なぜ「困難」なのか。彼の答えは、その困難が不足ではなく過剰から来る、というものだった。
雲と雷は明確な装飾的な線で表される。これは、始まりの困難の混沌の中に、すでに秩序が内在していることを意味する。君子はそのような始まりの時代の未分化な豊かさを整理し、組織化しなければならない。ちょうど、もつれた絹糸の中から糸を選り分け、それを束ねるように。
リヒャルト・ヴィルヘルム『易経』独語注より(QOOQ Inc. 訳)
「すでに秩序が内在している」が要点である。始まりの混乱は無秩序ではなく、未分化な秩序だ。だからやるべきは秩序の創造ではなく、分離と結合になる——ヴィルヘルムはこの直後に「人は分離することと結合することの両方ができなければならない」と続けている。
ヴィルヘルムの屯の注は、六爻それぞれの状況分析まで続く。全文(64卦分)は易経AIアプリに収録している。
六爻の解釈
初九(しょきゅう)——下から一本目の陽爻
「磐桓;利居貞,利建侯。」——磐桓(ばんかん)す。貞(てい)に居(お)るに利(よろ)し。侯(こう)を建(た)つるに利(よろ)し。(ためらいと妨げ。忍耐強くあり続けるのが有利である。助け手を任命するのが有利である。)
大きな岩に行く手を塞がれて動けない。だが爻辞は「留まれ」と「人を立てよ」を同時に言う。動けない時間は、待つ時間ではなく人を集める時間だという読みである。この卦の最初に置かれているのが陽爻であることも効いている——力はある。使い道がまだ定まっていないだけだ。
小象伝「象曰:雖磐桓,志行正也。以貴下賤,大得民也。」——磐桓(ばんかん)すといえども、志は正を行うなり。貴きをもって賤しきに下るは、大いに民を得るなり。
六二(りくじ)——下から二本目
「屯如邅如,乘馬班如。匪寇婚媾,女子貞不字,十年乃字。」——屯如(ちゅんじょ)たり、邅如(せんじょ)たり。馬に乗り班如(はんじょ)たり。寇(あだ)するに匪(あら)ず、婚媾(こんこう)せんとす。女子(じょし)貞(てい)にして字(あざな)せず。十年(じゅうねん)にして乃(すなわ)ち字(あざな)す。(困難が積み重なる。馬と車が分かれる。彼は盗賊ではない。時が来れば求婚したいのだ。乙女は貞淑で、身を任せない。十年経って、彼女は身を任せる。)
進もうとしてまごつき、馬に乗っても隊列がばらける。近づいてくる者は敵ではなく求婚者だが、女は応じず、十年経ってようやく応じる。十年は易経で最も長い待機を示す数で、「機が熟すまで」の比喩。正しさを保ったまま待つことが、この爻では拒絶ではなく選択になっている。
小象伝「象曰:六二之難,乘剛也。十年乃字,反常也。」——六二の難は、剛に乗ればなり。十年にして乃(すなわ)ち字(あざな)するは、常に反(かえ)るなり。
六三(りくさん)——下から三本目
「即鹿無虞,惟入于林中,君子幾不如舍,往吝。」——即(つ)きて鹿(しか)を無虞(むぐ)にす。惟(た)だ林中(りんちゅう)に入(い)る。君子幾(き)を見て、舎(お)くに如(し)かず。往(ゆ)けば吝(りん)。(猟師なしで鹿を狩る者は、森の中で道に迷うだけである。君子は時の兆候を理解し、断念することを好む。進むことは屈辱をもたらす。)
案内人(虞)を連れずに鹿を追い、森に逃げ込まれる。君子は兆しを見て追うのをやめる。追い続ければ吝(りん)——恥をかく。屯において最も具体的な警告で、協力者がいない状態での深追いを戒めている。手放すことが敗北ではない場面がある、という爻。
小象伝「象曰:即鹿無虞,以從禽也。君子舍之,往吝窮也。」——鹿に即(つ)きて虞(ぐ)なきは、禽(きん)を従うをもってなり。君子これを舎(お)くは、往けば吝にして窮すればなり。
六四(りくし)——下から四本目
「乘馬班如,求婚媾,往吉,無不利。」——馬に乗(じょう)じ班如(はんじょ)たり。婚媾(こんこう)を求む。往(ゆ)けば吉なり。利(よろ)しからざるなし。(馬と車が分かれる。結合を求めよ。進むことは幸運をもたらす。すべてが前進を助ける。)
馬と車がばらけそうでも、結び目を求めて進めば吉。六二と同じ「班如」でありながら結論が逆になるのは、こちらが自分から求めて動いているからだ。小象は理由を一語で言う——「明なり」。状況が同じでも、見えているかどうかで結末が変わる。
小象伝「象曰:求而往,明也。」——求めて往くは、明なればなり。
九五(きゅうご)——下から五本目(君位)
「屯其膏,小貞吉,大貞凶。」——其(そ)の膏(こう)を屯(あつ)くす。小貞(しょうてい)は吉なり。大貞(だいてい)は凶なり。(祝福における困難。小さな忍耐は幸運をもたらす。大きな忍耐は不運をもたらす。)
蓄えた膏(あぶら)が滞って行き渡らない。君位にありながら、力を配れない爻。小さく行えば吉、大きく行えば凶と、規模で吉凶が割れる珍しい形をしている。持っていることと、届けられることは別だという指摘。
小象伝「象曰:屯其膏,施未光也。」——其の膏(こう)を屯(あつ)くするは、施(ほどこ)し未(いま)だ光(おお)いならざるなり。
上六(じょうろく)——下から六本目(頂上)
「乘馬班如,泣血漣如。」——馬に乗(じょう)じ班如(はんじょ)たり。泣血(きゅうけつ)漣如(れんじょ)たり。(馬と車が分かれる。血の涙が流れる。)
馬と車が完全にばらけ、血の涙が流れる。屯の困難が極まった姿。ただし小象が「何ぞ長かるべけんや」と付け加える——この状態は長くは続かない。易経が最悪の爻に必ず時間の限界を書き添えるのは、屯のように「始まり」を扱う卦で特にはっきりしている。
小象伝「象曰:泣血漣如,何可長也。」——泣血(きゅうけつ)漣如(れんじょ)たり、何ぞ長かるべけんや。
実際の問いへの当てはめ方
変爻なしで屯が出た場合、いま起きている混乱は失敗の兆候ではない。始まったばかりのものに固有の状態である。ただし卦辞は「動くな」とも言うので、規模を広げる判断——増員、拡張、公表——はこの段階では早い。やるべきは、絡まっているものを一本ずつ解くことと、助け手を確保することの二つ。
変爻がある場合は該当する爻辞を読む。屯の六爻は「動けない(初九)」「まごつく(六二)」「深追いする(六三)」「求めて進む(六四)」「蓄えを使えない(九五)」「行き詰まる(上六)」と、始まりの困難の型を並べたものになっている。自分がどの型で詰まっているかを照合するとよい。
変爻によって屯が別の卦へ転じる場合、その之卦(しか)は混沌がどう解けるかを示す。屯は雷雨の卦なので、緊張が解けたあとに何が残るかを見る、という読み方が当たりやすい。
屯が答えやすい問い
- 「うまくいっていないのは、企画が悪いからか」——屯はそう読まない。始まりの困難は豊かさから生じる、というのがこの卦の前提。ただし整理されていないことは事実なので、絞り込みは要る。
- 「いま拡大してよいか」——卦辞が明確に「往く攸有る勿れ」と言う。規模を広げるのは早い。
- 「一人でやるべきか、人を入れるべきか」——「侯を建つるに利ろし」——人を立てよ、が卦辞の指示。屯は単独で越える卦ではない。
- 「いつまで待てばよいか」——六二の「十年にして乃ち字す」が易経で最も長い待機を示す。ただし上六の小象は「何ぞ長かるべけんや」——この状態自体は続かない、と言う。
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