䷃

第4卦 山水蒙(さんすいもう)

蒙(もう)・ 上に山、下に水 ・ 未熟さと、学びが始まる時

漢字/読み
蒙 ・ もう(méng)
意味
未熟・若さの愚かさ・学びの始まり
八卦の構成
上:☶ 山 / 下:☵ 水
二進数
010001(十進 17)
序卦
第4卦 / 前:第3卦 水雷屯

この卦の本質

「蒙」は、草木が覆いかぶさって暗い、という字で、転じて物事がまだ見えていない未熟さを指す。上卦の艮は山、下卦の坎は水。山の麓から湧き出たばかりの泉で、どこへ流れていくかまだ決まっていない。易経はこれを屯(始まりの困難)の次、第4卦に置く。生まれたものは、まず何も知らない——序卦伝はこの順序を「蒙とは物の穉(わか)きなり」と説明する。

この卦の要点は、未熟さそのものを悪と見ない点にある。卦辞の最初の一語は「亨(とお)る」で、蒙は通る、うまくいく。条件は学ぶ側の姿勢に置かれる。「我れ童蒙に求むるにあらず、童蒙我に求む」——教える側が売り込むのではなく、学ぶ側が求めて来る。そして一度答えたら、二度三度と同じことを聞き返されれば答えなくなる。この二つの条件は、そのまま易経の占い自体の作法でもある。

卦辞と象

卦辞

「蒙:亨。匪我求童蒙,童蒙求我。初筮告,再三瀆,瀆則不告。利貞。」
——蒙(もう)は亨(とお)る。我(わ)れ童蒙(どうもう)に求(もと)むるにあらず、童蒙(どうもう)我(わ)れに求(もと)む。初筮(しょぜい)は告(つ)ぐ。再三(さいさん)すれば瀆(けが)る。瀆(けが)るれば則(すなわ)ち告(つ)げず。貞(てい)に利(よろ)し。(未熟さには成功がある。私が若い愚か者を求めるのではなく、若い愚か者が私を求める。最初の占いには答える。二度三度と問えばそれは瀆(けが)すことで、瀆せば答えない。正しさを保つのがよい。)

—— 周易・卦辞
象(象伝)

「山下出泉,蒙;君子以果行育德」
——山下(さんか)に泉(いずみ)出(い)づるは蒙(もう)。君子もって行(おこな)いを果(か)し、徳(とく)を育(やしな)う。

—— 象伝(十翼)

卦辞のうち「初筮は告ぐ、再三すれば瀆る」は、易経の中で易経自身の使い方を述べた数少ない箇所の一つである。同じ問いを、答えが気に入るまで繰り返すのは、占いを瀆(けが)すことになる。これは教育論としても読める——教師の答えを疑って何度も聞き返す生徒には、答えが来なくなる。だから「貞に利ろし」が最後に置かれる。正しい姿勢を保つことが、蒙が亨る条件になっている。

山下出泉——麓の泉はどこへ流れるか

象伝は「山下に泉出づるは蒙。君子もって行いを果し、徳を育う」と言う。山の麓から湧いたばかりの泉は、まだ川ではない。流れる先も決まっていないし、途中の窪地をひとつずつ満たさないと先へ進めない。これが未熟さの像で、否定的な像ではない。泉は湧き続ける限り、いつか必ず川になる。

「果行」は行いを果たす、つまり決めたことをやり切ること。「育徳」はそれによって人格を養うこと。象伝の指示は「知識を増やせ」ではなく「行動を途中で止めるな」になっている。泉が窪地を満たすように、目の前のことを一つずつ終わらせる。それが蒙の時代の学び方だ、と象伝は言っている。

ヴィルヘルムはこの卦をどう読んだか

ヴィルヘルムは蒙を、生徒と教師の両方への助言として読む。未熟さは若者にとって悪ではなく、経験ある教師を見つけ、正しい態度で向き合えば成功できる。問題は、教える側と学ぶ側のどちらが動くか、だった。

これが、教師が自らを売り込む代わりに、求められるのを待たなければならない理由です。そうして初めて、指導は適切な時に適切な方法で行われます。生徒の質問に対する教師の答えは、神託から期待されるもののように明確かつ決定的であるべきです。

リヒャルト・ヴィルヘルム『易経』独語注より(QOOQ Inc. 訳)

教師の答えと神託の答えを同じものとして扱っている点が要になる。どちらも一度だけ、明確に与えられ、疑って聞き返す問いには答えない。ヴィルヘルムはこの少し先で「この卦は生徒だけでなく教師にも助言を与えます」と続け、六爻を教える側・学ぶ側それぞれの型として読んでいく。

ヴィルヘルムの蒙の注は、六爻それぞれの「愚かさの型」とその扱い方まで続く。全文(64卦分)は易経AIアプリに収録している。

六爻の解釈

初六(しょりく)——下から一本目の陰爻

「發蒙,利用刑人,用說桎梏,以往吝。」——蒙(もう)を発(ひら)く。用(もち)て刑人(けいじん)を利(よろ)し。用(もち)て桎梏(しっこく)を説(と)く。以往(もってゆ)けば吝(りん)。(愚かさを開発するためには、規律を適用するのが有利である。束縛は取り除かれるべきである。このまま進むことは屈辱をもたらす。)

蒙を発(ひら)く最初の段階では、刑人——規律や罰——を用いるのがよい、と爻辞は言う。ただし同時に「桎梏を説く」、手かせ足かせを外せとも言う。小象はこれを「以て法を正すなり」と読む。規律の目的は人を縛ることではなく、基準を正すことにある。縛ったまま進めば吝(恥)になる。学び始めの枷は、外すために掛けるものだという読みである。

小象伝「象曰:利用刑人,以正法也。」——刑人(けいじん)を用(もち)うるに利(よろ)しとは、以(も)て法(ほう)を正(ただ)すなり。

九二(きゅうじ)——下から二本目の陽爻。この卦の主爻

「包蒙,吉;納婦,吉;子克家。」——蒙(もう)を包(い)るは吉なり。婦(ふ)を納(い)るは吉なり。子(こ)家(いえ)を克(よ)くす。(愚か者を親切に耐え忍ぶことは幸運をもたらす。女性の扱い方を心得ていることは幸運をもたらす。息子は家庭を管理することができる。)

蒙を包む——未熟さを受け容れる——のは吉。婦を納れる(妻を迎える)のも吉。子が家を克くす、つまり家をよく治める。この爻は下卦で唯一の陽爻で、周りの陰爻をすべて受け持つ。小象の「剛柔接るなり」は、剛(九二)と柔(六五の童蒙)が応じ合う形を指す。教える側の爻であり、その条件は厳しさではなく包容として書かれている。

小象伝「象曰:子克家,剛柔接也。」——子(こ)、家(いえ)を克(よ)くすとは、剛柔(ごうじゅう)接(まじ)わるなり。

六三(りくさん)——下から三本目

「勿用娶女;見金夫,不有躬,無攸利。」——用(もち)て女(じょ)を取(めと)る勿(なか)れ。金夫(きんぷ)を見て、躬(み)を有(たも)たず。利(よろ)しき攸(ところ)なし。(青銅の男を見て、自分を見失う乙女を取るな。何も前進させるものはない。)

女を娶るな、と爻辞は言う。金夫(財産ある男)を見て躬(身)を有たず、自分を保てなくなる女だからで、利するところがない。学びの文脈に移せば、強そうなもの、立派に見えるものに自分を失って飛びつく態度を指す。小象は「行い順わざるなり」——その振る舞いは道理に順っていない、と短く切る。

小象伝「象曰:勿用娶女,行不順也。」——用(もち)て女(じょ)を取(めと)る勿(なか)れとは、行(おこな)い順(したが)わざるなり。

六四(りくし)——下から四本目

「困蒙,吝。」——蒙(もう)に困(くる)しむ。吝(りん)。(偏狭な愚かさは屈辱をもたらす。)

蒙に困しむ——未熟さの中で行き詰まる。吝。小象は理由を「独り実に遠ざかるなり」と言う。六四は陰爻で、上下を陰爻(六三・六五)に挟まれ、陽爻(実)の九二にも上九にも接していない。教えてくれる相手から最も遠い位置で、一人で詰まっている形。六爻の中でこの爻だけが、陽爻と接触を持たない。

小象伝「象曰:困蒙之吝,獨遠實也。」——蒙(もう)に困(くる)しむの吝(りん)は、独(ひと)り実(じつ)に遠(とお)ざかるなり。

六五(りくご)——下から五本目、君位

「童蒙,吉。」——童蒙(どうもう)は吉なり。(子供のような愚かさは幸運をもたらす。)

童蒙は吉。君位にある陰爻が、下の九二に応じて教えを受ける形で、卦辞の「童蒙我に求む」の童蒙はこの爻を指す。小象は「順にして以て巽うなり」——素直で、へりくだって従う。地位が上であっても、知らないことを知らないと認めて下の者に学ぶ。それが吉になる、という爻。

小象伝「象曰:童蒙之吉,順以巽也。」——童蒙(どうもう)の吉(きつ)は、順(じゅん)にして以(も)て巽(したが)うなり。

上九(じょうきゅう)——最上の陽爻

「擊蒙;不利為寇,利御寇。」——蒙(もう)を撃(う)つ。寇(あだ)を為(な)すに利(よろ)しからず。寇(あだ)を禦(ふせ)ぐに利(よろ)し。(愚かさを罰することにおいて、違反を犯すことは有利ではない。唯一前進させるのは、違反を防ぐことである。)

蒙を撃つ——もう包み込むのではなく、強く打って目を覚まさせる段階。ただし爻辞は条件を付ける。寇を為す(攻め込む側になる)のは不利、寇を禦ぐ(防ぐ側に立つ)のは利ろし。厳しさは守るためにだけ使う。小象の「上下順うなり」は、その条件を満たしたとき、上の者も下の者も納得して従う、と読める。

小象伝「象曰:利用御寇,上下順也。」——寇(あだ)を禦(ふせ)ぐを用(もち)うるに利(よろ)しとは、上下(じょうげ)順(したが)うなり。

実際の問いへの当てはめ方

変爻なしで蒙が出た場合、まず自分が「童蒙」の側か「教える」側かを見分ける。問いを立てている本人が童蒙なら、卦辞の処方はそのまま使える——知らないことを認め、答えてくれる相手を自分から求め、一度得た答えを疑って聞き直さない。教える側なら、求められるまで待ち、答えるときは一度で明確に答える。

変爻がある場合は該当する爻辞を読む。蒙の六爻は、学びの場面で起きる型を並べている——枷を掛ける(初六)、包み込む(九二)、強いものに飛びつく(六三)、一人で詰まる(六四)、素直に求める(六五)、強く打つ(上九)。自分がどの型にいるか、相手がどの型にいるかを照合する。

変爻によって蒙が別の卦へ転じる場合、その之卦(しか)は泉がどこへ流れ出すかを示す。蒙は出発点の卦なので、之卦を「この学びが向かう先」として読むと当たりやすい。

蒙が答えやすい問い

自分自身の卦を立てて読む

易経AIは伝統的な筮竹アルゴリズムを実装し、出た卦を原典の漢文、ヴィルヘルムのドイツ語訳、英語ヴィルヘルム=ベインズ訳、日本語訳の四種で提示します。20万文字以上の注釈で訓練されたAIが、あなたの具体的な状況に照らして卦を読み解きます。

易経AIをダウンロード