第5卦 水天需(すいてんじゅ)
需(じゅ)・ 上に水、下に天 ・ 雲が天に上り、雨を待つ時
- 漢字/読み
- 需 ・ じゅ(xū)
- 意味
- 待つこと・時を待って養う
- 八卦の構成
- 上:☵ 水 / 下:☰ 天
- 二進数
- 111010(十進 58)
- 序卦
- 第5卦 / 前:第4卦 山水蒙
この卦の本質
「需」は待つ、そして必要とする(需要)という字。上卦の坎は水、ここでは天に上った雲。下卦の乾は天、剛健な力。雲が天に上れば雨は降るが、人が降らせることはできない——それがこの卦の像で、だから待つ。序卦伝は蒙の次にこれを置く理由を「物穉(わか)ければ養わざるべからず。故にこれを需に受く。需とは飲食の道なり」と言う。生まれ、まだ幼いものは養わねばならない。需は養うための待機である。
卦の形も「待つ」を言っている。下の乾は進もうとする力で、上の坎は険難。強い力が危険の前にいて、突進しない。弱い者が危険の前に立つと動揺して待てないが、強い者は待てる。だから需の待機は、何もできないから待つのではなく、できるのに待つことになる。卦辞が最初に置く条件は「孚(まこと)有り」——内なる確信。確信があるから、待つことが空しい希望にならない。
卦辞と象
「需:有孚,光亨,貞吉。利涉大川。」
——需(じゅ)は孚(まこと)有り。光(こう)にして亨(とお)る。貞(てい)なれば吉なり。大川(たいせん)を渉(わた)るに利(よろ)し。(待機。もしあなたが誠実であれば、光と成功があるだろう。忍耐は幸運をもたらす。大河を渡るのが有利である。)
「雲上于天,需;君子以飲食宴樂」
——雲(くも)天(てん)に上(のぼ)るは需(じゅ)。君子もって飲食(いんしょく)宴楽(えんらく)す。
卦辞は「待て」と言いながら、最後に「大川を渉るに利ろし」——大きな川を渡れ、とも言う。矛盾ではなく順序で、「孚有り→光にして亨る→貞なれば吉→大川を渉るに利ろし」と条件が積み上がっていく。確信があり、見通しが明るく、正しさを保って待てたとき、はじめて危険を越える決断ができる。需は待つための卦ではなく、渡るために待つ卦である。
雲上于天——雨は降らせるものではなく、待つもの
象伝は「雲、天に上るは需。君子もって飲食宴楽す」と言う。雲が空に上がっていれば、雨はいずれ降る。しかし人が雲を押して降らせることはできない。できるのは、降るまでの時間をどう過ごすかだけで、象伝の答えは「飲食し、宴楽せよ」——食べ、飲み、くつろげ、である。
これは怠けろという指示ではない。序卦伝が需を「飲食の道」と呼んだとおり、待つ時間は養う時間で、体と心を強くしておくことが、雨が降った瞬間に動くための準備になる。心配して先回りしたり、時が熟す前に手を出したりするのは、雲を押すのと同じで、何も早まらない。
ヴィルヘルムはこの卦をどう読んだか
ヴィルヘルムは需を、運命が働いている時間の過ごし方として読む。雨は時が来れば降り、人は降らせることができない。問題は、その間に何をするか、だった。
空に雲が昇るとき、それは雨が降るしるしです。雨が降るまで待つ以外にできることはありません。運命が働いているときの人生においても同じです。
リヒャルト・ヴィルヘルム『易経』独語注より(QOOQ Inc. 訳)
「雨が降るしるし」と言い切っている点が要になる。待つことが成り立つのは、結果が来ることが見えているからで、見えていない待機は需ではない。ヴィルヘルムはこの直後に、心配や早すぎる干渉を退け、「食料と飲み物で体を、喜びと元気で心を強化すべき」と続け、象伝の飲食宴楽をそのまま準備の指示として読んでいる。
ヴィルヘルムの需の注は、六爻が水際へ近づいていく距離の変化と、九五に置かれた「この卦全体の秘密」まで続く。全文(64卦分)は易経AIアプリに収録している。
六爻の解釈
初九(しょきゅう)——下から一本目の陽爻
「需于郊。利用恆,無咎。」——郊(こう)に需(ま)つ。恒(つね)なるを用(もち)うるに利(よろ)し。咎(とが)なし。(野原で待つ。永続するものにとどまるのが有利である。咎はない。)
郊(こう)——町の外の開けた野——で待つ。危険はまだ遠い。爻辞は「恒なるを用うるに利ろし、咎なし」——変わらない生活を続けよ、と言う。小象はこれを二つに分けて読む。郊で待つとは、難に向かって踏み込まないこと。恒を用いるとは、常(いつもの型)をまだ失っていないこと。待機の最初の段階で守るべきものは、特別な構えではなく、いつもどおりの暮らしである。
小象伝「象曰:需于郊,不犯難行也。利用恆,無咎;未失常也。」——郊(こう)に需(ま)つとは、難(なん)を犯(おか)して行(ゆ)かざるなり。恒(つね)なるを用(もち)うるに利(よろ)し、咎(とが)なしとは、未(いま)だ常(つね)を失(うしな)わざるなり。
九二(きゅうじ)——下から二本目の陽爻
「需于沙。小有言,終吉。」——沙(すな)に需(ま)つ。小(すこ)しく言(げん)有り。終(つい)に吉なり。(砂の上で待つ。少しゴシップがある。終わりには幸運がもたらされる。)
沙(すな)——川岸の砂地——で待つ。水が近づき、「小しく言有り」、小さな非難や噂が立つ。それでも終に吉。小象は「衍(えん)にして中に在るなり」と言う。衍は寛(ゆと)りがあること。中位の陽爻で、余裕を保ったまま危険の近くにいる。噂に傷ついて言い返せば争いになるが、応じなければ消える、というのがこの爻の読み。
小象伝「象曰:需于沙,衍在中也。雖小有言,以終吉也。」——沙(すな)に需(ま)つとは、衍(えん)にして中(ちゅう)に在(あ)るなり。小(すこ)しく言(げん)有(あ)りといえども、以(も)て終(つい)に吉(きつ)なり。
九三(きゅうさん)——下から三本目の陽爻
「需于泥,致寇至。」——泥(どろ)に需(ま)つ。寇(あだ)の至(いた)るを致(いた)す。(泥の中で待つことは敵の到来を引き起こす。)
泥(どろ)で待つ——川に近すぎる場所に出てしまい、寇(あだ)が来るのを自分で招く。小象の読みは厳密で、「災いは外に在り」、災いそのものは外から来る。しかし「自ら寇を致す」、招いたのは自分の早すぎる前進である。それでも「敬慎すれば敗れず」——ここで慎めば負けはしない。失敗の爻ではなく、踏み込みすぎに気づいて止まる爻。
小象伝「象曰:需于泥,災在外也。自我致寇,敬慎不敗也。」——泥(どろ)に需(ま)つとは、災(わざわ)い外(そと)に在(あ)るなり。我(われ)より寇(あだ)を致(いた)すも、敬慎(けいしん)すれば敗(やぶ)れざるなり。
六四(りくし)——下から四本目の陰爻。上卦(坎)の最初
「需于血,出自穴。」——血(ち)に需(ま)つ。穴(あな)より出(い)づ。(血の中で待つ。穴から出よ。)
血に待つ——もう危険の中にいる。この爻から上卦の坎(水・険)に入る。爻辞は「穴より出づ」、穴から抜け出せる、と続ける。小象はその条件を「順にして以て聴くなり」と言う。陰爻の柔らかさで、抗わず、聴く。危険の只中で何かをして状況を悪くしないこと、それ自体が穴から出る方法になっている。
小象伝「象曰:需于血,順以聽也。」——血(ち)に需(ま)つとは、順(じゅん)にして以(も)て聴(き)くなり。
九五(きゅうご)——下から五本目、君位。この卦の主爻
「需于酒食,貞吉。」——酒食に需(ま)つ。貞(てい)なれば吉なり。(酒と食物で待つ。忍耐は幸運をもたらす。)
酒食に待つ。貞なれば吉。危険の只中にも、比較的うまくいく間(ま)が訪れる。その間を使って飲み食いし、力を回復する。小象は「中正を以てなり」——中位にあり正位にある(陽爻が陽の位にいる)ことを理由に挙げる。象伝の「飲食宴楽」はこの爻で実現する。目標から目を離さずに、いまこの瞬間を楽しむ余裕。需の待機が他の卦の待機と違うのはここで、待つ間も自分の正しさを確信しているから平静を失わない。
小象伝「象曰:酒食貞吉,以中正也。」——酒食(しゅし)貞吉(ていきつ)とは、中正(ちゅうせい)を以(も)てなり。
上六(じょうりく)——最上の陰爻
「入于穴,有不速之客三人來,敬之終吉。」——穴(あな)に入(い)る。招(まね)かざるの客(かく)三(さん)人(にん)有りて来(きた)る。之(これ)を敬(うやま)えば終(つい)に吉なり。(人は穴に落ちる。招かれざる客が三人やってくる。彼らを敬えば、終わりには幸運があるだろう。)
穴に入る——待機が終わり、危険はもう避けられない。そこへ「速(まね)かざるの客三人」が来る。下卦の乾の三本の陽爻が上ってくる形で、招いていない者たちである。爻辞は「之を敬えば終に吉」と言い、小象は「位に当たらずといえども、未だ大いに失わざるなり」——この爻は陰爻が陽位にいて正しくないが、大きく失うことはない、と補う。拒まず、構えず、来たものを敬う。状況は自分の動きではなく外からの介入で転じる。
小象伝「象曰:不速之客來,敬之終吉。雖不當位,未大失也。」——速(まね)かざるの客(かく)来(きた)る、之(これ)を敬(うやま)えば終(つい)に吉(きつ)なりとは、位(くらい)に当(あ)たらずといえども、未(いま)だ大(おお)いに失(うしな)わざるなり。
実際の問いへの当てはめ方
変爻なしで需が出た場合、答えは「いまは動かない」である。ただし卦辞の順序どおり、待つ前に確かめることが一つある——孚(まこと)、つまり結果が来るという確信が自分にあるか。あるなら待つことが成り立つ。待っている間は象伝の指示に従い、生活を崩さず、体と心を養う。時が来たら「大川を渉る」決断が待っている。
変爻がある場合は該当する爻辞を読む。需の六爻は水際への距離を段階で示す——郊(まだ遠い・初九)、沙(近づいた・九二)、泥(近すぎる・九三)、血(危険の中・六四)、酒食(危険の中の小休止・九五)、穴(追い込まれた・上六)。いま自分が危険からどれだけの距離にいるか、を読む卦になっている。
変爻によって需が別の卦へ転じる場合、その之卦(しか)は雨が降ったあとの景色として読む。需は待機の卦なので、之卦は「待った結果、何が始まるか」を示すと読むと当たりやすい。
需が答えやすい問い
- 「いま動くべきか、待つべきか」——需は待て、と言う。ただし待つための条件が一つある——「孚有り」、結果が来るという確信。確信がないなら、それは需の待機ではない。
- 「待っている間、何をすればよいか」——象伝が答えている。飲食宴楽——体と心を養い、生活の型(恒)を崩さない。初九の「恒なるを用うるに利ろし」も同じ。
- 「批判や噂が気になる」——九二の爻辞がそのまま当たる。「小しく言有り、終に吉」。応じなければ消える、と小象は言う。
- 「もう待てないところまで追い込まれた」——上六。穴に入り、招かざる客が三人来る。拒まずに敬えば終に吉。状況は思いがけない形で、外から転じる。
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